ひとふた奇譚
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千枝

「あっ!?」

 道端の茂みから飛び出してきたのは先ほどの犬だった。
 反射的に艮藤くんの後ろに隠れるようにすると、犬は艮藤くんの足元で立ち止まって顔を上げる。

艮藤

「…………」

 艮藤くんは私をかばうように少し身構えたけれど、犬の方は吠えることなく、愛嬌良く尻尾を振った。

艮藤

「大人しい……? 犬、嫌い……ですか?」

 後半は私の方を振り返って、艮藤くんが訊いてくる。

千枝

「ううん、好きなんだけど……追いかけられて困ってるの。飼ってあげられないし」

艮藤

「ああ、そっか……それなら」

 一人納得したように頷いて、艮藤くんは犬に手を伸ばす。

千枝

「構うと懐いちゃうよ?」

 先ほどの自分と同じように、艮藤くんが撫でようとしているのだと思った。

艮藤

「大丈夫です。すぐに逃げるはず……」

 犬に手を近づけて、どこか寂しそうに艮藤くんは呟いた。

千枝

(逃げるはず……?)

 艮藤くんの言葉に反して、犬は大人しく艮藤くんに撫でられていた。

艮藤

「……なんで?」

 不思議そうに艮藤くんが首を傾げる。

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