ひとふた奇譚
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「おい、帰るぞ」

千枝

「あ、ありがと……っとと……」

 乾くんの手を取って立ち上がったものの、まだ右足は痺れて上手く立てなかった。



「……仕方ないな、ほら」

千枝

「え、あの、乾くん?」

 私に背を向けて、乾くんはかがみ込んだ。

左坤

「あ! いーさんズルイ! オレもどさくさに紛れて、千枝ちゃんにギュッてされたい!」



「……お前と一緒にするな」

千枝

「えっと…」



「遠慮するな。怪我をさせたのは、俺の責任だからな」

千枝

「そ、そんなことないよ?」

 乾くんはもちろん、左坤くんの責任でもなく、ただ、私自身の責任だった。



「いいから早くしろ。また門限を破って、皿洗いしたいのか?」

千枝

「う……じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」

 そっと乾くんの背中に身体ごと体重をかけるが、乾くんは簡単に立ち上がった。



「……思ったより、重いな」

千枝

「!?」

左坤

「いーさん、本当は、オレよりDNなんじゃない?」

 二つ尾を胸に抱いて、左坤くんはおかしそうに笑った。

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